平成30年度 空気調和・衛生工学会近畿支部学術研究発表会奨励賞講評

令和元年517

 

平成30年度 空気調和・衛生工学会近畿支部学術研究発表会奨励賞講評

 

学術研究発表部門:6編

 

A-2 放射併用パーソナル空調を導入したテナントオフィスビルの評価研究(第2報)室内温熱環境評価とパーソナル気流ユニットの利用実態

○小林佑輔(竹中工務店),粕谷敦(竹中工務店),和田一樹(竹中工務店),小林知広(大阪大学),

 山中俊夫(大阪大学),袁継輝(大阪大学),西堀啓規(大阪市立大学),川分芳子(大阪市立大学),

 藤田有香(大阪市立大学)

審査評:本論文は、放射併用パーソナル空調を導入した実テナントオフィスを対象とし、夏期、設定室温を変化させた場合のパーソナル空調の利用実態、温冷感・満足度を調査している。従来型より送風量を増やし気流感・到達距離を大きくしたこともあり、設定室温を緩和しても、パーソナル空調を個人の好みに合わせて活用し満足感につなげていると結論付けている。学術貢献工学応用性、アピール力が高く評価されたことから奨励賞に値する論文と判定した。

 

A-27 置換換気を導入した4床病室の換気特性に関する研究(その2)冷却・加熱壁面が室内汚染物濃度分布に及ぼす影響

〇伊濱大晟(大阪大学),山中俊夫(大阪大学),小林知広(大阪大学),崔ナレ(大阪大学),

 若狭弥保(大阪大学),

審査評:本論文は、置換換気の適用可否が壁面温度に依存する可能性に着目し、置換換気適用時の室内二酸化炭素濃度分布の壁面温度依存性を実験により検討することで、壁面温度により室内CO2濃度分布が影響を受け、特に吹出し気流が相対的に暖かく壁面との温度差が大きいときにその影響が顕著であると結論付けている。豊富な実験データがわかりやすく提示されており、工学的応用性とアピール力が高く評価されたことから奨励賞に値する論文と判定した。

 

A-38 無菌治療室を対象とした換気システムの性能評価に関する研究(その4)気流方向と給気面積が非等温場の換気効率に及ぼす影響

〇村山熙(大阪市立大学),小林知広(大阪大学),梅宮典子(大阪市立大学)

審査評:本論文は、無菌治療室の各種空調システムの性能評価を目的とし、給気面のパンチングメタル開孔率を変更した解析を行い、開孔率が小さく天井全面から流入する条件で換気効率が上昇すると結論付けている。非等温場における詳細な数値シミュレーションが実施されており、学術貢献工学応用性が高く評価されたことから奨励賞に値する論文と判定した。

 

A-47 冬季における農業用ビニルハウスの効率的な暖房方式に関する研究(第6報)高床式砂ベッドにおける根域の加温に適した断熱材形状の検討

〇齋藤旬郎(大阪市立大学),西岡真稔(大阪市立大学),鍋島美奈子(大阪市立大学),

 大橋良之(東レ建設),北川康孝(東レ建設)

審査評:本論文は生産性・施工性の観点から農業分野で着目されている高床式砂栽培方式を対象とし、砂ベッドの熱容量が小さいことから冬季のために効率的な加熱設備と高断熱化が求められる問題を取り扱っている。研究内容はまず伝熱シミュレーションを用いて根域保温に適した断熱材配置を提案し、その上で実験により収穫量も含めた適切な検証を行っている。論理的な研究手順が踏まれ有益な知見が提供されており、新規性と工学的応用性が高く評価されたことから奨励賞に値する論文と判定した。

 

A-74 大学施設内のマイクロバイオームの実態に関する調査研究(第2報)便所・エレベータ内および研究室内細菌叢の実態調査

〇福ヶ野拓也(大阪大学),山中俊夫(大阪大学),小林知広(大阪大学),崔ナレ(大阪大学)

審査評: 本論文では、多くの人々が集まる施設におけるヒト- 環境- ヒト間での感染による健康被害対策として、建築空間内において存在するマイクロバイオーム(微生物叢)をDNAレベルで解析し、細菌の特徴およびそれらの伝搬経路について考察することを目的とし、詳細で緻密に浮遊微生物および付着微生物をサンプリングし、細菌の種類と数、その関係性等を解析した。その結果、季節による検出細菌の共通点や相違点を明らかにするなど、新たな知見が得られたことを報告しており、新規性、学術貢献工学応用性、アピール力ともに高い評価を得たことから、奨励賞に値する論文であると判定した。

 

A-83 空調利用を目的とした帯水層蓄熱の研究(4)夏期・冬期の蓄熱量・流量を平衡させる運用方法の検討

〇竹口智也(大阪市立大学),西岡真稔(大阪市立大学),中尾正喜(大阪市立大学),

 中曽康壽(大阪市立大学),鍋島美奈子(大阪市立大学)

審査評:本論文では、実用化段階まで発展してきている帯水層蓄熱空調システムの持続的で安定した運用に向けて、年間地中蓄熱量と冷房・暖房期の積算還水流量を平衡させることを目的として、数値シミュレーションにより運用方法が検討された。その結果、前年の運用結果を翌年の運用方法にフィードバックして平衡させる操作方法が提示され、新規性、学術貢献工学応用性が高く評価されたため、奨励賞に値する論文であると判定した。

 

技術報告発表部門:2編

 

B-1 クールウォームソファを用いたタスク・アンビエント空調に関する研究,クールウォームソファの概要と冷房時の実測結果及びサーマルマネキン・被験者実測結果

〇井上大嗣(日建設計)

審査評:本論文は、近年注目されているタスクアンビエント空調を金融機関の営業ロビー空間に導入した事例に関する報告である。待合ソファーをクールウォームソファとしてパーソナル空調に使用したアイデアは非常にユニークであり、サーマルマネキン実測、被験者実験を通じて、その効果がしっかりと実証されている。実際に導入された店舗でも好評を得ており、実用化が望まれる。新規性と工学的応用性が高く評価されたことから奨励賞に値する論文と判定した。

 

C-1 ZEB化の最新技術動向と取り組み

○永吉敬行(大成建設),湯浅孝(大成建設)

審査評:本技術報告は、ZEBを見据えた先進建築物として、外皮の高断熱化及び高効率な省エネルギー設備を備えた建築物に関する報告である。ファサードではインナースキンにLow-E複層ガラスを用いたダブルスキンを採用し、太陽追尾電動ブラインドを設置している。全熱交換器・顕熱交換器を組み合わせた外気処理システムと顕熱処理ビルマルチエアコン、人検知センサー照明制御など省エネルギー設備を導入し、ZEB Readyを実現している。よって新規性と工学的応用性が高く評価されたことから奨励賞に値する技術報告と判定した。


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